1月9日(水)『権利擁護支援従事者研修(奈良市)』【報告】
AS-J権利擁護支援従事者研修開催報告書
1.日 時 平成31年1月9日(水) 10:00~16:00
2.会 場 奈良市文化会館 2階 集会室A・B
3.参加者数 81人(市内54人、市外23人、県外4人)
4.プログラム
(1)講義「権利擁護支援の基本」
講師:佐藤 彰一さん
(全国権利擁護支援ネットワーク代表・國學院大學法学部教授・弁護士)
(2)講義「意思決定支援とエンパワメント」
講師:佐藤 彰一さん
(3)グループワーク(権利擁護支援ケースの事例検討)
権利擁護支援を軸にして
講師: 今井 友乃さん(NPO法人 知多地域成年後見センター事務局長・
全国権利擁護支援ネットワーク事務局長)
尾崎 史さん(NPO法人 あさがお理事)
5.報 告
作成者 : 松本 敬子
10:10~11:00 権利擁護支援の基本
11:10~12:00 意思決定とエンパワメント
■権利擁護支援とは・・・
〇“権利擁護”という言葉は福祉の言葉である。
→アドボカシーを権利擁護と呼び、保護の対象だった高齢者を主体として捉えた。
対象者は様々、事情はそれぞれだが、伝えることが困難か伝えることが弱く社会的に辛い思いをしている人たちが人間らしい生活が出来るように代弁活動を行う。
※人の思いを代わって伝えることは難しい。
近年はセルフアドボカシーを主張。(セルフアドボカシー:その人のことはその人自身が一番よくわかっている。本人が伝えられる活動をする。)
〇アドボカシー(権利擁護)の要素
- 自己決定の尊重
本人の思いを尊重しなければ本人が悲しい思いをする。
(ex)長期施設入所中の高齢者
主張が無視される→話さない→言葉を失う
※生活が本人にとってふさわしいものになるように支援する。
- ご本人にとって(良い生活)最善利益の確保
本人が選んだ生活/本人が選んだものが最適か否か議論される。
(ex)自分の家で住み続けたい。←本人の希望。
家はゴミ屋敷で転倒し怪我をする危険がある時は・・・?
※支援者から見て①と②が一致しない場合→問題・・・悩みの種になる。
①と②が一致しないことを認識する必要がある。
- 社会的承認(連帯性・エンパワメント・外向性・内向き)
人と関わって生きているから・・・。
・唯一の正解はなく、正解を求めると苦しくなる。
ただし・・・自分が何をしているか説明できなければならない。
・他の意見が出てくることもある。→戦うしかないが、どちらが正解かは言えない。
・①~③を満たしているか考える必要がある。
■三つのエピソード
〇本人の思い、自己決定を尊重する。(家族の思いを尊重する?)
(ex)高齢者(女性)の独居世帯。配偶者が亡くなり独居となった。近隣に住む嫁が様子を見に通っている。→嫁は義母が一人暮らしで淋しいのではないかと考えた。
→施設入所を勧めた。
後見人①:嫁の意向に沿って入所手続きを進める。
後見人②:義母の思いを聴いた。自宅での生活を希望。
→在宅サービスを利用し自宅での生活を継続。
※家族の思っている本人の思いは必ずしも一致しない。
〇私の言うことを尊重する。
(ex)就労している障害者。服薬管理が困難の為、糖尿病が悪化し医療食の利用が必要となったが本人は拒否。
後見人①:本人の意思を尊重し、放置。→病状が悪化。
後見人②:工夫をする。本人が提案を拒否する理由を聴く。
医療食は冷たいから嫌。
※本人が嫌がることを無理強いしない。本人の自己決定を尊重する。→本人だけが決めることではない。=アセスメントが必要。孤立させないアドバイスが必要。
〇権限がないとなにも出来ない?
(ex)施設入所中に骨折。手術が必要だが同意できる親族がいない。
後見人①:同意できない。→手術が出来ず、車いす生活となる。
後見人②:本人の意向を医師等に伝える。→手術し回復。
※権限がないから何もしないはNG。
本人の意思を探って行動することが大切。
■正義とケアを考える。
(ex)延命治療について・・・幸福のマーゴは何者か?
延命治療を希望しない高齢者(マーゴ)が認知症になった。
日々の生活の認知はないが、笑顔で暮らしている。
〇ロナルド・ドウォーキング教授
・自分が決めたことが尊重されない。→自分が尊重されていないのでは?
・人間は強い。=自己決定が出来る。
→認知症になると判断能力が無くなり、自己決定が出来なくなる。
〇キャロル・ギリオン氏
・小学生対象に質問をした。
(ex)重症の妻の為に薬が必要。薬を飲めば妻は助かるが薬が高額の為、
購入できない。薬は近くの薬局に売っている。
→・薬を盗む?盗まない?
→・男の子:盗む。命は一番大事だから。
・女の子:盗んではいけない。他の解決策を夫と一緒に考える。
※正義とは違う考え方がある。
ケアは目の前にいる人を見る。正義の倫理とは別。
■意思決定支援とはなにか?
〇代行決定
判断能力がないと思われる。(高齢者)→代わって判断する。
→どんなに重度の知的障害があっても、認知症でも思いや考えがある。
→能力存在推定(パラダイムの転換)→あると考える。意思決定支援。(自己決定)
〇日本における権利擁護
・意思決定支援には代行決定支援も含まれる。
・成年後見は代行決定支援。
・後見人と被後見人を周囲の人と支援する。
→地域でチーム、中核機関を作る。
→アセスメントを充実させる。①広報機能②相談機能③成年後見制度利用促進機能(委任者の調整、マッチング等の支援/担い手の育成・活動促進)
※成年後見制度はツールのひとつ
権利擁護の光が届かない人への支援が大事。
■成年後見人は意思決定支援者なのか?
・判断能力のない人に成年後見人をつける。
→仕事をするときは被成年後見人の意思を尊重する。
・基本的には代行決定になる。意思決定能力の意思を尊重して支援を行う。
・何をどうすればいいのかよくわからない。→代行決定支援の中で意思決定?
構造上の不備もある。促進が困難。
・家族が後見から離れつつある。
・制度的に欠陥がある。→中核機関が必要。
■ガイドラインは?
・意思決定と代行支援が混在している。→意思決定を先行させるべき。
実務を分ける。(意思決定と代行支援)
※アセスメントをしっかりとる。=チームで話し合う。
※センスと能力が要求される。
13:00~16:00 グループワーク
〇10グループに分かれ事例検討を行う。
・個人ワークでシートを埋めていく。
↓
・記入したシートを元にそれぞれの意見を出し合う。
↓
・模造紙にメンバーの意見を集約し、シートを完成させる。
〇グループ発表
・いろんな視点からの意見が出てきて勉強になった。
・自分ひとりでは思いつかないアプローチの方法がわかった。
・グループでシェアすることにより、アプローチに広がりが出来た。
・ワークをスタートした時は家族ひとりひとりがどこにも繋がっていないと感じたが
少しずつ繋がっていけることがわかった。
・家族ひとりひとりに寄り添い思いを聴くことで解決の糸口がつかめることもある。
・必要な支援がそれぞれ異なり、バラバラになってしまう。支援者を取りまとめる役割を担う人も必要。
<感想>
研修を通じて、権利擁護の基本的な考え方、支援をするときに気を付けること等につい
て学ぶことが出来た。どんな人にも意思がある。本人の意思を尊重することが大事。
本人を置き去りにした支援を行わない。また、行き詰まった時にはチームで一緒に考え
れば違ったアイデアが生まれることもグループワークを通じて体験することも出来た。
“支援者のセンスと能力が要求される”という一言をお伺いし、責任をもって支援に
取り組むと共に地域で安心して暮らせるためにネットワーク構築や相互に学び合い、
交流し協働することの必要性も実感した。