設立の歩みと現在

(1)はじめの一歩

兵庫県西宮市にある特定非営利活動法人PASネットでは、2005年より地域の権利擁護支援システムの確立を目指して全国各地の主だった権利擁護支援活動を行っている団体等を訪問又は招聘し、組織形態や活動内容についての情報・意見交換と実践交流を行ってきました。(表1)

 

表1 PASネットが交流した団体

2005年5月 出雲成年後見センター(島根県出雲市)
2006年7月 宮城福祉オンブズネット エール(宮城県仙台市)
2006年8月 東濃成年後見センター(岐阜県多治見市)
2006年9月 伊賀地域福祉後見サポートセンター(三重県伊賀市)
2006年9月 あさがお(滋賀県大津市)
2006年9月 徳島当事者擁護ボランティアホップス(徳島県徳島市)
2006年9月 そよ風ネットいわき(福島県いわき市)
2006年10月 東松山市総合福祉エリア(埼玉県東松山市)
2007年6月 岡山高齢者・障害者支援ネットワーク(岡山県岡山市)
2007年6月 西成後見の会(大阪府大阪市)
2007年7月 北九州成年後見センター みると(福岡県北九州市)
2007年9月 PACガーディアンズ(千葉県)
2007年9月 多摩南部成年後見センター(東京都調布市)
2008年3月 湘南ふくしネットワークオンブズマン(神奈川県茅ヶ崎市)

 

 こうした交流を通して、全国各地に地域で権利擁護支援活動を行っている団体があること、その動きも活発で新たな団体も増えていること、今後ますます地域の権利擁護支援ニーズが広がり、それに対応するための仕組みづくりや実践活動が求められていること等が確認できました。そこで、全国的な権利擁護支援ネットワークの形成に向けた取り組みとして「権利擁護支援全国ネットワーク構築推進事業」を、WAMネット(独立行政法 福祉医療機構)助成金「高齢者・障害者福祉基金(特別分)」に申請。今年度(平成20年度)、ようやく助成を受けることに決定しました。

(2)ネットワーク形成

<2008年度>
 こうして「特定非営利活動法人PASネット」が、これまで交流・連携してきた権利擁護団体等を中心に、地域における権利擁護支援の展開とネットワークの必要性の理解を求めて「全国権利擁護支援ネットワーク(仮称)」構築の呼びかけを行いました。
その上で、全国各地の権利擁護支援団体等を個別に訪問、事業の趣旨説明等を行いながら賛同していただける団体・個人を確保していきました。その際、ネットワーク化の柱として、次の3点を特に確認しました。

(1) 権利擁護支援のネットワークであること(成年後見のネットワークではない!)
(2) 他職種連携(法律職と福祉職の連携を中心に)
(3) 地域での権利擁護支援の実践活動

 そして全国を6つのブロックにわけ、各地域ブロックを基本にメーリングの立ち上げ、顔の見える情報交換や交流の機会を設定しました。
地域ブロック内での横のつながりができたところで、実践交流と地域啓発を基本とする地域フォーラムを開催していきました。
そして各地域ブロックの交流の総括として、2009年2月7~8日に「全国権利擁護支援ネットワーク会議inとうきょう」を全社協灘尾ホール(東京:霞ヶ関)にて開催、地域における権利擁護システム確立のための各地からの提言や2009年度における「全国権利擁護支援ネットワーク(仮称)」の組織化を目指した検討を行いました。
<2009年度>
 2009年度も引き続きWAMネットより助成を受けて「全国権利擁護支援ネットワーク組織化事業」
として行うことになりました。具体的には「組織化」に向けて改めて設立趣意書」を作成し、2008年度事業における趣旨賛同団体30団体に送付して改めて参加を呼びかけました(趣意書参照)。また2008年度においては北海道や四国地区には趣旨賛同団体を確保することが出来なかったことから、趣旨賛同団体より情報提供をいただき、愛媛県や北海道内にアプローチを行っています。
そして、9月5日(土)兵庫県西宮市において「全国権利擁護支援ネットワーク」の設立総会が行われ、22団体が加入して正式に発足しました。

 

(3)任意団体「全国権利擁護支援ネットワーク」設立

 介護保険制度の改正、障害者自立支援法の施行等、福祉制度が目まぐるしく変化する中で、福祉サービスの利用は確実に広がり、契約という手法も定着してきているようです。しかし、高齢者や障害のある人たちの地域生活の状況を見ると、消費者被害や虐待等の権利侵害は拡大しており、生活保護や年金等の利用や地域居住の場の確保、居住環境の整備、介護・福祉サービスの利用を含めた生活支援の確保等、権利行使に対する支援ニーズも増大しています。このように地域生活が脆弱で危機的な状況にある中で、地域における権利擁護支援に関わる課題も山積しています。

高齢になっても、障害があっても、地域から排除されず、必要なサービス・支援を確保して、自分らしい「地域自立生活」を営むことは、誰もが持っている基本的な権利です。高齢や障害、疾病等のために身体能力や意思判断能力等が不十分であっても、人間としての尊厳や権利主体としての立場が損なわれることがあってはなりません。その権利を守り、現実にある不平等や差別、虐待等をなくすための権利擁護の取り組みは、社会の責任として果たさなければならないものです。

この間、こうした「思い」を持ち、誰もが地域で安心して暮せるために、地域で権利擁護に関わる支援活動を始めた団体が全国各地に生まれています。そこでは権利擁護の専門的な相談支援、研修会等による地域啓発の取り組み、成年後見制度の利用支援、「法人後見」の活用、「市民後見人」等の養成、福祉オンブズマン活動等、多様で特色のある活動が展開されています。しかし、それぞれの懸命な努力にも関わらず活動している団体の多くが脆弱な組織・事業基盤であるために財源や人材の確保等に苦しむ状況が共通してあります。また基本的な支援の考え方や方法論等においても、それぞれの団体の独自性に委ねられており、現状では普遍化されたものはありません。

しかし、全国各地で権利擁護支援の実践を積み重ねてきた団体・個人が、権利擁護支援のネットワークを形成して、相互に学び合い、交流し協働することによって、それぞれの活動を充実・発展させ、全ての人に通じる支援として権利擁護の手法を普遍化していくことができるはずです。

私たちは、地域の権利擁護支援活動を推進し、誰もが地域で安心して暮らせるために必要な法制度の整備を行い、日本に権利擁護支援システムを構築することを目標として掲げたいと思います。この目標を実現するために、ここに、「全国権利擁護支援ネットワーク」を設立しました。

2009(平成21)年 9月 5日

 

(4)一般社団法人(事務局)の設立