『高齢者終身サポート事業者ガイドライン(案)』へのパブリックコメント

全国権利擁護支援ネットワーク運営委員・協力委員の協力のもと、意見書をまとめ、5月17日(木)に政府への意見書として提出いたしました。

 

「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(案)に関する意見」

標記ガイドライン案について、全国権利擁護支援ネットワークとして次の通り意見を提出いたします。

 

はじめに

私どもは2009年に地域における権利擁護支援の拡充・発展のために設立された任意団体ですが、事務局は同名の一般社団法人が担っております。設立以来権利擁護支援団体は「他人をなにかの目的の手段として取り扱わない」ことを重要な理念として活動を展開してきました。

そうした私どもの活動方針から見て、今回の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(案)」(以下、単にガイドラインという)は、看過しがたい問題点を含むものであり、このままでは、地域で支援を求める高齢者などの支援に資するというよりは、むしろ高齢者等の生活を危険に晒す可能性があると判断します。

 

1 ガイドラインの目的について

冒頭の目的について我々は下記のような意見を持っている。

1)こうした事業者へのニーズがあることは認めるが、民法や消費者保護法との抵触があることはいなめず、死亡により契約が終了する民法の規定との整合性など、説明が足りていない。もっとも、こうした事業者へのニーズがあることだけでなく、事業者に対する規制の必要性=悪質業者の排除・質の担保の必要性があり、そのためにガイドラインを作成する意味があるかもしれない。しかし、本ガイドラインはその点でも不十分である。

2)そもそも身元保証は、不要な制度であると政府は繰り返し指摘しており、にもかかわらず身元保証を求める医療、福祉事業者が後をたたないことへの施策が書かれていない。これでは、政府自らが自分たちの従来の主張を否定し、現状追認的なガイドラインとなっている。

3)身元保証を使わずとも、社協のサービス(日常生活自立支援事業)や、行政サービス(生活困窮やおひとり様支援)、後見法人(中核機関)などが地域に根付いて、死後事務や医療・福祉サービスの提供、日常生活のサービスなどができるような総合的支援対策を打ち出すべきである。地域づくりを営利に走りかねない民間事業者に頼るような施策は止めるべきである。重要なのは地域づくりであり、その視点が本ガイドラインでは稀薄である。

 

2 ガイドラインの対象者(4p)

三つの事業を行うことを要件としているが、死後事務だけを行う事業者も但し書きで対象としており、対象となる事業者および事業の対象が不明確である。

1)たとえば、ガイドラインP5 【表1】高齢者等終身サポート事業において提供されるサービスの例として身元保証など記載されているが、下記のような問題がある。

そもそも身元保証とはなにをするのか、説明がない。また連帯保証とはなにを保証するのか、これも説明がない。かりに本人の財産から医療費や施設利用費を支払う業務をいうのであれば、それは身元保証でもなければ、連帯保証でもない。医療に係る意思決定への関与と書かれているが、医療同意権が後見人ですら否定されている現状で、事業者がなにをするのか説明がない。

2)身元保証等サービス(10p)

・ 身元保証等サービスについては、ガイドライン10p以降に医療機関への入退院、介護施設等への入退所の手続等の支援・代行、連帯保証(身元保証)、緊急連絡先の指定の受託、緊急時の対応、身柄の引取り等を行うことが考えられるが、と重ねて記載されている。

意見

・身元保証等サービスの内容が広すぎる、医療機関への入退院、介護施設等への入退所の手続等の支援・代行は、身元保証等サービスに入れるのは不適切である。なぜならこれでは利用者と社会との接点がなくなり身元保証事業者だけが接点となる可能性がある。つまり利用者は事業者に囲み込まれることになる。これでは利用者が孤立することとなる。

・前述の通り連帯保証=身元保証はおかしい。本人ではない他者が担保することによって、連帯保証等は成立するにも関わらず、本人のお金で保証をするというのは、矛盾するし、連帯保証人等は保証人自身に責任が及ばないようにするなど、本人よりも優位にできる要素をもつので、対価を発生させることなどは利益相反性を懸念する。

  • 緊急連絡先について

11pに緊急連絡先についての記述があるが、これについても、単に緊急連絡先を設けるだけでは意味がなく、緊急時に現実に機能する(実際に動ける人)が必要である。この点についての指摘がガイドラインに記載されていない。

 

3 身元保証等は代行決定となり、自己決定を妨げる。

利用者の意思決定を尊重することは成年後見制度利用促進法や基本計画等で国が謳っているにもかかわらず、このような「事業者丸抱え」ともなりかねない事業は、事実上の代行決定(他者決定)となる可能性がある。国連の障害者権利条約12条では、成年後見それ自体を代行決定であるとして否定しているが、否定しているのは成年後見だけでなく「事実上の代行決定」であり、このような身元保証は「事実上の代行決定」となりかねない。その意味では障害者権利条約とも矛盾する。この点では、このガイドラインの考え方は国が今後めざすべき方向性としておかしいと考える。

ガイドラインの作成者としては、「高齢者等の意思決定等を支援する仕組み」に「高齢者等終身サポート事業」が合致するものであって「高齢者等終身サポート事業」が高齢者等の意思決定等の支援を実現するものである、という理解している可能性がある。しかし、前述のように高齢者を囲い込んで地域から切り離し、利用者を孤立化させ、意思決定支援に名をかりた「事実上の代行決定」を行う可能性が非常に高く、ガイドラインの意思決定支援の考え方は現場の実態から乖離している。

 

4 孤独・孤立化する高齢者などに対する考え方

地方を含め、どの地域でも支援を期待できる親族がいない社会環境は急速に訪れる。一方、社会資源が乏しい地方は、社会資源による課題解決がより困難になる可能性が高い。

その場合、(本人・親族等・行政・事業者などあらゆる社会の構成員にとって)社会的に身元保証等が不要な環境づくりと社会づくりが必要である。たとえば、新たなセーフティネット対策として、相続人不存在時の行政権限の強化、相続人不存在時の国庫帰属等の場合に、国庫帰属ではなく市区町村にとって有利な改正を検討することが必要である。

身寄りがない方の死後で問題になる、ご遺体の引き取りや葬儀等があるが、これを誰がするのか? ご遺体の引き取りも火葬も納骨も全て市町村がやるということが理想であるが、現状では自治体によってばらつきがあり、ここが民間事業者の乗り出してくる背景となっている。遺品の引き取りもどうするか?わざわざ相続財産清算人まで選任して、これらを処分するのか。預金通帳の扱いをどうするのか。法改正を含めて対処すべき問題であり民間事業者に丸投げするような対応は地域づくりの観点からみて好ましくない。

 

5 遺贈・寄付について

微妙な問題であるが、ガイドラインではこれを認める方向で記載されている。しかし、少なくとも利用者の利益を損なうことのない適正な事業運営を目的にするのであれば、こうしたことは一切禁止すべきである。事業者の経営がそれでは成り立たないというのであれば、そこへは公的資金を投入して、健全な事業者のみを育成すべきである。

 

6 紛議調整などについて

現状においても利用者及びその遺族との間で紛議が生じている。そうしたものについて、行政が介入して調整し適正な運営を行う必要があるが、そのことについてはまったく触れられていない。その意味では無責任なガイドラインとなっている。特に遺族がいる場合は遺族が契約上の地位を引き継いで事業者側に法的手続きをとる可能性もあるが、遺族がいない、いわゆるおひとり様状態の高齢者においては、誰も契約の適性をチェックする立場の人や組織が存在せず、きわめて危険な状態に置かれることになる。このことについての言及をガイドラインにおいてすることは必須である。

業界団体をつくってそれで事足りるでは、民間事業者任せといわれることになろう。地域づくりの観点から考えて利用者を地域の中に組み込んでいく方策が必要であろう。

 

7 その他の意見

上記の他、ネットワークのメンバーから次のような意見があった。日常生活支援サービスを身元保証業務に加えることへ懐疑がいくつかみられる。これは本来、他の制度の問題であり、これを身元保証にいれれば、まさに事業者による利用者の囲い込みが生じることへの懸念があると思われる。また死後事務サービスについても同様の懸念が示されている。

 

1) 現実は身元保証を求められる状況であり、支援関係者の負担が大きくなっています。

本人の判断能力の有無、成年後見人等の有無や居所等によって起こりうる課題は違いますが、身元保証に代替出来る仕組みを「権利擁護」と「社会保障」の観点から、個人の問題ではなく社会システム上の課題として捉える必要があり、その取り組みを進めることが先だと考えます。

以上のことから下記の2点を挙げ、その2点を進めるためのコーディネーター役(中立的に役割分担を差配する人)の存在と、事業開発をするための公的資金の確保が必要かと思います。

①病院や施設が身元保証人に求める役割を既存の関係機関で役割分担をする

②それでも役割分担が出来ない項目については新たな社会資源として、行政を巻き込みながら地域の実情にあった事業を支援関係者の想いだけでなく、当事者や地域住民等の意見も入れながら立ち上げていく。

 

2)本来は身元保証を求めない運用を病院や施設に求めたい。ただ、やはり病院や施設も利用料の取りっぱぐれや、亡くなった後の遺体の引き取りなどはしてもらわないと困るというのも事実ですし、病院や施設にだけ負担をかけるのも酷だと思います。なので、病院や施設が身元保証人に求める役割を関係機関で役割分担できればいいと思います。それをきちんとルール化するよう、病院や施設にマニュアルを整備させることが必要です。

ただし、地域によっては死後事務や金銭管理などを担える社会資源がないところもあるので、すべて解決とはいきません。しかし、安易に身元保証サービスに任せればいいとなってしまうのは、身元保証を必須としない運用を求める立場からすると違うような気がします。

 

3)身元保証の問題については、入院や施設入所、アパートなどの賃貸契約などでしばしば課題として挙げられることがありました。そのたびに本人や行政も含めた支援者会議を開催し、受け入れ側が身元保証や身元引受けに求める機能と、それを果たす役割や支える取り組みを協議してきました。

このガイドラインがそもそも必要なのか?という疑問はもちつつ、地域で暮らす住民さんのためになる取り組みにつながればと思います。

 

4)そもそも身元保証サービスがなくとも安心して生活していける社会を作るべきという動きと矛盾するのではないか。一方で、現場で起きているのは施設や病院での「身元保証人がいない場合の契約拒否」です。保証人がいないと申込すらできないという施設があり、別の権利侵害が起きています。

合理性や効率性を価値とする“マクドナルド化するソーシャルワーカー”や支援者が増えていくことが懸念されます。 ”日常生活支援サービス“が含まれていることにも違和感があることも強調したいと思います。

5 )ある民間事業者が「身元保証等サービス」と「死後事務サービス」をセットにして契約を締結しています。 死後事務サービスがかなりの高額であり、更に、ホームページで支援費用一覧が記載されていませんが、身元保証等サービスに位置付けられるサービス一つ一つが高額で生活そのものに支障をきたす状況が生じています。

こうした状況に『ガイドライン』で一定程度の基準を示し、規制しようという趣旨は理解できますが、ガイドラインに従えば、オールOKみたいなことに、なるのではないかという根本の問題解決に至っていない点が課題であると感じています。

また、死後事務サービスを契約している人であっても、死亡した際に、この人が死後事務サービスの契約を締結しているかどうかは、本人が生前に周囲の人に言っていればですが、それを誰にも言っていなければ、業者は契約費用だけを手にして死後事務の対応は行政任せになりかねない懸念も持っています。

もう1点は、ガイドラインP15・16にある「(3)日常生活支援サービス」についてです。

ガイドラインP16の中に、ヘルパー等の介護職員が保険外サービスとして担うこと、ケアマネジャーの負担軽減のため、連携して取り組むこと、とありますが、ヘルパー等が保険外で担うことは誰が適正管理し、監督するのかが全くはっきりせず、ややもすると経済的虐待・搾取になりかねず非常に危険です。判断能力の状況によっては、更にリスクが高まります。 これをガイドラインで「業務分担」として何気に記載していることの理解もできません。

こうした点についても、権利擁護支援という視点においても慎重な議論が必要であると

考えています。

 

6) 総論的なこととなってしまいますが、ガイドラインが策定されたとして、「当該事業者がガイドラインに沿っていることを客観的に確認できない」ということがあってはならないと考えます。

容易に確認できれば安心して利用することができるという観点から、高齢者が相談に出向く先の地域包括支援センターは、このことを大変気にしていました。

総務省行政評価局による「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査結果報告書」(令和5年8月7日付)によると、「国への意見・要望」として9点が掲げられています。そのすべてを書くことはできませんが、その中で、「最低限実施すべきことを示したガイドライン」が策定されようとしています。(「メリット・デメリットの考慮」が、どれ程なされているかは定かではありません。)

また、日本弁護士連合会の令和6年1月19日付の意見書では「身元保証等高齢者サポート事業の位置づけを法律上明確にし、監督省庁による責任ある監督を確保するための法制度を速やかに整備するべきである。」とありました。

行政評価局の報告に照らして、総論の前に各論が表に出てきた(「何らかの規制や登録制度」以下の動きが不明であり、全体像が見えない)ことが、混乱している理由のようです。