第2回アジアシンポジウム 【報告】
第2回 アジア障害者・高齢者権利擁護支援 国際シンポジウム |
開 催 報 告 |
2016年12月3日・4日の二日間、愛知県の名古屋国際会議場において、「第2回アジア障害者・高齢者権利擁護支援国際シンポジウム」が開催されました。昨年は韓国のソウルで第1回が開催され、2回目となる今回は、韓国、台湾、シンガポール、中国、そして日本と、東アジアの5か国から総勢約150名の参加者を得て行われました。
プログラムはまず、主催国を代表して全国権利擁護支援ネットワーク代表・佐藤彰一氏の挨拶に始まり、日本福祉大学副学長の平野隆之氏、来賓として内閣府から須田俊孝氏、愛知県弁護士会会長の石原真二氏、さらに韓国成年後見学会会長・朴仁煥氏からそれぞれ開会の挨拶がなされました。その後1日目はパート1からパート4まで、それぞれのテーマに基づき3~5名づつが登壇して報告を行う4つのパネルセッションが、2日目はパート5、6として同様に2つのセッションが展開された後、パート7として佐藤代表による総括講義と、その後佐藤氏を含む5人の各国パネラーによる報告及び討論、また追加の報告や質疑応答で締めくくられました。
パート1
各国の権利擁護の現状と課題 |
パート1では、参加国それぞれから各国の制度や今後の動向などの紹介がなされました。
シンガポール・レジーナ・チャン氏(シンガポール成年後見庁)からは施行後6年が経つ同国意思能力法改正の方向と共に、公的後見庁と家庭裁判所の関わりが示されました。台湾・黄詩淳氏(台湾大学)からは台湾における代行決定制度とその課題(国際的な動向との乖離)、韓国・白承欽氏(清州大学)からは韓国法における高齢者権利擁護システムの概要と各法改正に伴う様々な取り組みの説明がなされました。日本の竹内俊一氏(全国権利擁護支援ネットワーク/竹内法律事務所)からは意思決定支援と障害者差別解消法について、意思決定支援の定義から実際の取り組み、また社会的ネットワークをキーワードとする今後の方向感が示され、最後に中国の李霞氏(華東政法大学)からは中国内陸の成年後見法の発展と変革について、現状の制度の位置づけや今後の傾向、規定の具体化に向けての発表がなされました。
それぞれで異なる法律や制度に基づき、また運用上の課題などを背景とした各国の取り組みや現状、意思決定の支援に向けた考え方などを聞くことができました。
コーディネーターは岡孝氏(学習院大学)。
パート2
財産管理の現状と課題 |
パート2ではまず韓国の嚴徳洙氏(韓国成年後見支援本部)が登壇し、自身の後見(監督)実務に基づく本人財産の侵害事例等も踏まえて、同国の成年後見法施行3年半を経ての今後の改善等の案が示されました。続いて同じく韓国のソン・インキュ氏(法務法人ジョンウォン代表弁護士)からは、専門職後見人としての財産管理を中心とした豊富な実務事例が報告されました。次に熊田均氏(東濃成年後見センター/熊田法律事務所)から日本で活用が進められつつある信託のメリットと課題、また成年後見制度との併用関係(併用で効果を発揮)についての報告があり、最後に日本独特の取り組みである日常生活自立支援事業についての紹介が田邊寿氏(伊賀市社会福祉協議会)及び吉藤則彦氏(燕市社会福祉協議会)よりなされ、実際の活動状況を映像資料で紹介するという場面もありました。
このパートは韓国と日本のみの発表でしたが、両国に共通する課題である身近な親族による本人財産の侵奪等への対応・予防と、本人財産活用の調和を考えさせられるひとときでした。
コーディネーターは田邊寿氏(全国権利擁護支援ネットワーク/伊賀市社会福祉協議会)。
パート3
虐待防止と権利擁護 |
パート3は各国における虐待対応がテーマでした。韓国のソ・ドンウン氏(障害者権益擁護センター)からは、近年明るみに出た塩田事件にも触れつつ、同国の障害者虐待とその被害回復を図る機関・機能等についての説明がなされました。続くシンガポールのアルヴィン・タン氏(家庭政策局)からは現在準備が進められている高齢者・障害者の保護強化を視野に入れた弱者法の話題が提供されました。日本からはまず高齢領域の側面から池田直樹氏(上本町総合法律事務所)が、障害領域については福島健太氏(SIN法律事務所)が、それぞれの虐待防止法制の成り立ちからポイント、課題について詳しく触れました。
虐待防止や被害救済等についての具体的な取り組みは、いずれの国においてもまだ緒についたばかりといった印象であり、今後も注視していくべき分野であるとの思いを強くする機会となりました。
コーディネーターは池田直樹氏(上本町総合法律事務所)。
パート4
判事(元判事)と考える 後見制度と権利擁護 |
パート4では台湾からは現役の判事である李莉苓氏(台北市地方裁判所)と、韓国から金ユンジョン氏(韓国司法政策研究院)が、日本からは元判事の稲田龍樹氏(学習院大学)が登壇しました。
台湾における後見のありようとしては、担い手のほとんどが家族だが適切な家族がいない場合、社会局などいわゆる行政機関が担う場合があること、後見監督は裁判所が担っていることなど、公的な介入の強さが印象的でした。韓国の金氏からは豊富な統計資料に基づき制度利用にまつわる傾向などが示され、我が国の傾向と比較して、類似点や相違点など興味深く見ることができました。日本の稲田氏においては近年問題になっている後見人の不正に関することや法律の改正等に触れ、今後どうあるべきかの示唆も加えられました。
コーディネーターは諸哲雄氏(漢陽大学)。
1日目全体を通して、一人当たりの発表時間が15分と非常に限られたものだったため、その枠に収まりきれない発表がいくつか見られましたが、いずれも凝縮された非常に興味深い内容のものが並びました。
パート5
意思決定支援(支援現場) |
2日目の日程は、意思決定支援に関しての具体的な支援実践の発表で幕を開けました。まずは韓国のジョン・チャンフン氏(韓国自閉人サラン協会)が、地域で暮らす発達障害者について、信託を通した財産管理を含む、本人の老後も視野に入れた詳細な個別支援計画に基づく支援事例を紹介しました。台湾の戴璃如氏(台湾国立大学)からは医療面における意思決定支援の現状と、「よき臨終」の権利としての同国自己決定法についての説明がなされました。日本からは二名が登壇。野口友子氏(PACガーディアンズ)からは本人の意思を汲むための試行錯誤を繰り返しながら、他の支援者らと共に重度知的障害者の地域生活を支える事例が、また山田隆司氏(東濃成年後見センター)からは福祉サービスや親族の都合で本人の権利が侵害されているケースに粘り強く対応した事例が、それぞれ紹介されました。いずれも意思決定支援を基本的な考え方として、個別の具体的な課題の中で本人の思いをどう受け止めて、どう実体化していくかが発表されました。
コーディネーターは上田晴男氏(全国権利擁護支援ネットワーク)。
パート6
権利擁護における自治体または国の役割 |
パート6ではまず、従来は韓国の国家サービスからは排除されがちであった発達障害者を、それぞれの支援計画に基づき個別に支えるべく国(中央)及び広域自治体に設置された発達障害者支援センターの役割について、中央のセンター長であるクォン・オヒョン氏が発表しました。対する日本からは複数の自治体がゆるやかな行政圏域を構成し、成年後見に関する事業を包括的に実施する愛知県知多地域における取り組みについて、構成市のひとつである東海市役所の神野規男氏からその設立背景や成果について発表がなされました。韓国からは中央の、日本からは地方の取り組みがそれぞれ紹介されたところで、DPI日本会議副議長・尾上浩二氏から、同氏ご自身が障害者として生きてこられた経験を踏まえ、内閣府の障害者政策委員や政策企画調査官を歴任された立場から、障害者権利条約の実施に向けた課題が提起されました。
コーディネーターは平野隆之氏(日本福祉大学)。
パート7
総括講義/まとめ・討論・質疑応答 |
最終セッションとなったパート7は冒頭で佐藤彰一氏による振り返りのコメント(参加国ごとの制度や言葉の違いから統一的な理解は難しいが意思決定支援に向けた取り組みは各国共通であること等)がなされると共に、総括講義が行われました。現在は意思決定能力をめぐるパラダイム転換の途上にあるとして、従来は本人の意思決定能力が存在しないと推定し、代行決定することが多かったことに対し、本人の能力は存在するものと推定し、自己決定の支援をする方向への転換であること、本人の能力の有無ではなく支援者側の能力の問題であること、自己決定能力の存在にこだわるのは、人間の存在を肯定することにほかならないことであることなどが語られました。虐待事案の背景には能力不存在推定の考え方があり、どんな人でも必ずその人なりの考えや思いがあることを前提に見ていく必要があるという部分は、特に印象に残った点と言えるでしょう。
講義に続く形で最後に参加国それぞれを代表する方々が登壇し、佐藤氏のコーディネートの下、これも総括として各国の取り組みのまとめや課題、そして展望などが発表されました〔シンガポール:ダニエル・コー氏(シンガポール家庭裁判所)、台湾:黄詩淳氏、韓国:諸哲雄氏、中国:李霞氏、日本:佐藤彰一氏〕。各国からの総括としては障害者権利条約(CRPD)を踏まえた在り方、受け皿(担い手)拡大の方向性、制度面のみならず社会面からの言及、制度の違いを超えた国家間の協力の必要性、意思決定はひとりでやるものではないとの提言、改正途上の法律の行方、裁判所以外の後見監督の可能性、地域社会でのネットワークの拡がり等々、盛りだくさんな内容に及びました。
さらに中国から、現在上海で公証人を務める参加者からの追加発表として、同国公証人の実務と任意後見の取り扱いについての報告がなされました。中国の公証人の話が日本で紹介されることはこれまでにあまり例がないということで、大変貴重な機会となりました。その後再び各登壇者から補足の説明が加えられ質疑応答なども行われましたが、一層の理解を深めると共にさらなる関心を高めるきっかけにもなり、我が国の実情との比較と合わせて、各国の取り組みの今後の行方や進展などに思いを馳せるひとときになりました。
最後にフィナーレとして、次年度の本シンポジウムの開催国がシンガポールであることの告知がなされました。それを受けて同国から参加のレジーナ・チャン氏から、昨日のセッションの中で時間の都合により割愛された部分の追加説明と合わせて、次回開催に向けてのご挨拶がなされ、二日間にわたる充実したシンポジウムが閉幕となりました。
参加国ごとの制度の異なりや文化の違い、また似て非なる用語の理解など、難解と感じる部分も少なからずありましたが、高齢化の問題や障害者権利条約を踏まえた意思決定支援の在り方など、各国共通して抱える問題や取り組み、今後の方向性などを、実践レベルで学び合える本国際シンポジウムの取り組みは、身近なアジア圏域における各国相互の理解・交流やそれぞれの取り組みの進展を促すという意味においても、今後も不可欠なものと確信した次第です。
最後になりましたが本シンポジウムを開催するにあたり、各後援団体はもとより、協賛をいただいた団体・個人の方々、さらには運営にご協力いただいた皆様方に、この場を借りて深くお礼を申し上げます。
(全国権利擁護支援ネットワーク運営委員 吉藤則彦)