『第11回全国フォーラム』【報告】

 

 

 

2月15日(土)・16日(日)両日に行われました第11回全国フォーラムの報告書を滋賀県のNPO法人あさがおの事務局長・近澤様に作成していただきました。

ぜひ、ご一読ください。

 

 

全国権利擁護支援ネットワーク全国フォーラム 報告

 

2020年2月15日(土)、16日(日)の両日、京都にある同志社大学新町校舎臨光館301教室にて、第11回全国権利擁護支援ネットワーク全国フォーラムが盛大に開催されました。

 

二日間のフォーラムでは2つのセッションの開催とアドボカシー・オブ・ザ・イヤー2020(AOY)授賞式が挙行されました。初日は第1セッションとして、パネルディスカッション「意思決定支援は可能か」が行われ、二日目は第2セッションとして、パネルディスカッション「独自の地域づくりは可能か」が行われました。

 

【2月15日】

初日は、田邊寿さん(全国権利擁護支援ネットワーク副代表、社会福祉法人伊賀市社会福祉協議会)からの開会のあいさつの後、①パネルディスカッションが行われました。そその後、初日の締めくくりとして、②アドボカシー・オブ・ザ・イヤー2020(AOY)授賞式が挙行されました。

 

  • パネルディスカッション「意思決定支援は可能か」

パネリスト:Joanne Taylorさん(Nidus、カナダ)

諸哲雄さん(漢陽大学校法学専門大学院教授、韓国)

佐藤彰一さん(全国権利擁護支援ネットワーク代表、國學院大學法学部教授、弁護士)

コーディネーター:山口正之さん(萩・長門成年後見センター理事長、弁護士)

 

≪佐藤彰一さん≫

海外と国内での議論の違いを感じます。カナダ・ブリティッシュコロンビア州(以下「BC州」)では既に意思決定支援の法制度があり、今日、ジョアンヌ・テイラーさんからその報告をしていただきます、また、韓国では法律制定の動きがあり、諸さんからその報告がされます。それに対し日本は成年後見制度の中で意思決定支援をしようとしていますが、それは正しいか?制度内での運用ではなく、能力不存在推定から能力存在推定への“パラダイム転換”が必要です。

世界もこの流れで動いており、国連のモニタリング委員会も「代行決定は残らない」と言っています。しかし今、国が進めようとしている「意思決定支援」では、「意思決定支援ができない場合」のみ「代行決定」であると言っています。この点について私は、そもそも「意思決定支援ができない場合」とは、本人の能力によるものではなく、支援者側が本人の意思をくみ取る力がないことを指しているのだと考えます。このため、私は代行決定は『残る』と思います。

そもそも、日本では「自分のことは自分でできる」「人の力を借りない」ことを前提として人の能力をみてきました。しかし、そもそも人とは相互依存が自然の姿です。

 

また、ケアと正義について、正義は基準が明確で“ばっさり”と切るところがあり、ケアは正義と相いれないところがあります。そうだとすると、意思決定支援を考えるとき、ケアが考えるか?日本は、成年後見制度の中で意思決定支援するとなれば、家庭裁判所・法律家が担うことになります。これでは“正義”が基準となり、“ケア”ではありません。裁判所の中で“ケア”を扱えることが出来ますか?意思決定支援は“ケア(不定型)”の世界の話です。そもそも不定型なもの(2年前、松江地裁判決でも「被後見人の心身の状態や生活状況をどう把握するかは、後見人の裁量」と判断されています。)を定型的な基準で判断することが難しいのではないか。“正義”が基準である裁判所のシステムで意思決定支援のシステムを作ることは困難です。

 

実は社会福祉協議会が実施している事業に「日常生活自立支援事業」があり、この仕組みはカナダの制度に似ています。これは、裁判所の管轄外で契約の難しい人(認知症等)と契約を結ぶシステムです。契約の世界で実施されており、裁判所外のシステムです。私は新しいものを作るということではなく、既に日本の中に優れたシステムがあり、それを見直していくことに意味があるのではないかと考えています。しかし、利用者数が伸び悩んでいます。

 

意思決定支援が必要なのは生活場面が中心です。その意味では、日常生活自立支援事業のほかに、兵庫県西宮市社会福祉協議会では個人中心の計画作成の実践があり、日本の中でも世界の方向と類似する優秀なシステムが生まれています。ただ、日本のメジャーになっていません。西宮方式は世界的に優れています。

 

≪諸哲雄さん≫

韓国では国連から障害者の権利条約違反との指摘を受けている中、当事者の運動は強く、取り組みを進めているところです。今日は、実践を通して現在の動きをお伝えします。

私は2つの事例について相談を受け、本人に関わりました。いずれの精神障害、発達障害のある当事者も、家族・親族の意向により入院が勧められました。

しかし、自己決定の尊重は自己領域の尊重が前提にあり、その上で、他人の自己決定の尊重と有効な交流関係があれば、自己決定の尊重はうまくいっていると言えます。意思決定支援はどのような時でも自己領域に対する侵害を犯してはなりません(現在、差し迫った顕著なリスクを除いては)。

自己領域とは、身体的・精神的・情緒的な面があると考えられますが、多くが情緒的な面を侵害しがちです。親が子どもの為と思ってする行為(あなたの学力ではその大学受験は無理だから目的を変更しろ等「愛しているから」「あなたのために」)は、本人とって深く傷つく行為となります。命などに危険がない限り、ありのままに本人を尊重しなければなりません。

 

韓国社会は競争社会であり、いじめも多く違いを認めない社会であり、政治的にも協力するより敵対する傾向が強いです。一方、家庭愛が強く、共同体に対する希望を持ち情が深く、政治的にも変化に対しては積極的です。

社会を変えるため、強みに焦点を当てることが大切です。自己領域を尊重する社会をつくるために、意思決定支援を制度化する必要があり、そのために障害者・認知症高齢者等の理解を進めることが重要です。すでに、「公共信託サービス」「高齢者のための事前医療、自然療養指示書登録事業」などを進めています。

 

≪佐藤彰一さん≫

意思決定支援には3つの局面があり、①理念としての意思決定支援、②支援手法としての意思決定支援、③法制度としての意思決定支援があります。

まず、法制度としての意思決定支援について、韓国もカナダも成年後見制度とは違うシステムを採用しています。日本も成年後見制度とは違うシステムが必要です。それは、前述の日常生活自立支援事業です。これは社会福祉協議会独特のものです。この事業には欠陥はあり、改革していかなければなりません。具体的には、この事業の対象者は、ある程度の認識がある人となっており、これをもう少し利用しやすいような形にしていく必要があります。

 

≪諸哲雄さん≫

韓国の新法制定にむけての進捗状況を伝える前に、代行意思決定の問題を示します。①近しい人が後見人になっていません、②行為能力が制限され、取消権が出て来、不完全な人になります、③被後見人の最善の利益のために意思決定します。このため、本人に聞こうとしません。このような代行決定の欠陥をなくす必要があります。

韓国では2つの法案があります。①精神疾患者のための法。これは昨年国会に提出されました。対象は入院している人です。②発達障害者のための公共信託を法制度化する法律。これは今年提出予定。発達障害者自身と親のお金で地域で生きていけるようにする法律です。

最終目標は、意思決定支援の法律を作ることです。民法の成年後見制度をなくし、意思決定支援の特別法を作ることです。

 

≪佐藤彰一さん≫

代行決定をする人が意思決定支援するので困難をきたしています。最後まで裁判所が意思決定支援を所管するのは困難です。意思決定支援は生活・ケアの世界に移っていいと思います。

成年後見制度を完全に排除するのは難しいと思います。韓国は完全排除に向かっているから、私の考え方は遅れているのかもしれません。

 

≪諸哲雄さん≫

裁判所が中心になる意思決定支援には問題があります。植物人間の代行決定は必要ですが、それはラストリゾートとしてです。成年後見制度はラストリゾートとしてのみあるべきです。

 

≪佐藤彰一さん≫

民法の規定は改革される必要があります。ドイツの世話法は日本とは異なります。①行為能力は奪われない、②代理権のみ、③身体障害者も利用出来ます。

家庭裁判所が代行決定と意思決定を区分けするのは難しい。大阪意思決定支援研究会の「後見人等のための意思決定支援ガイドライン」は区分けしましょうとしていて凄い。しかし、家庭裁判所は使い勝手が悪いと言っているようです。→翌日の川端氏発言へ。

 

≪ジョアンヌ・テイラー(Joanne Taylor)さん≫

カナダでは、哲学としての「意思決定支援」は他州でも持っていますが、「意思決定支援」の法律を持つ唯一の州がBC州です。

1989以降、家族・障害当事者・高齢当事者・後見人・金融家等が入り、公的な議論が進められました。本当に変化する為には法律化を必要とし、時間を要しました。1992年、法律が出来たあと、実践する組織として「Nidus」を立ち上げました。法律を実践するためにはビジョンが大切であり、社会教育を提供しています。また、委任状などの登録機関の役割を有しています。

私たちは、既存の成年後見を「非人格化するもの」とみています。能力を失った時に代理人が突然現れ、その人たちの権利を奪ってしまうことと理解しています。

BC州がやりたかったことは、普通の人たちがお互いに助け合うということです。法で定めているのは①理念、②支援方法、③法制度で、③法制度としては、市民のみなさんに「生存中の個人計画」を含め「契約」を締結し、登録するよう勧めています。代理契約法第7条には理解能力が疑わしい場合でも、この代理契約を締結できるとしています。(対象範囲は資料の通りです。)

代理契約法は連続性を重視しています。意思決定は、「独立した意思決定(自分で決める意思決定)」⇔「代理による意思決定」との間には、相互依存による意思決定があり、これらは連続しています。人々は大抵、相互依存による決定をします。この連続性に取り組むためには、法律は柔軟でなければなりません。

また、話すことが出来なくても、行動により表わしてくれるので決定することができます。そのため、その人のことを良く知っている人の存在が必要です。このため、代理人になれるのは(個人計画を実行できるのは)、親族・知人等本人を知る人です。有料でサービスを担う人はなれません。監督する人をつけることができます。また、決められた義務があり、①現在の希望を聞く、②過去の発言を尊重する、③価値・信念に基づき判断します。

 

【パネラーの主張】

≪佐藤彰一さん≫

日本の成年後見制度では、代行決定をする人と意思決定支援をする人が同一です。別にするべきと考えます。裁判所ではなく、生活支援・ケアの世界で決定することに移った方がよいと思います。(もちろん、代行決定を必要とする人はいると思いますが。)

新しい法制度については、実は日本にはすでに「日常生活自立支援事業」という意思決定支援のしくみがあります。ただし、もう少し利用しやすく変革していくことが必要と思われます。

 

≪諸哲雄さん≫

目標としているのは成年後見制度を廃止して、新しい「意思決定支援法」を作ることです。

精神障害者で強制入院中の人に対して手続き補助制度を国会に提出しました。

発達障害の人の公共信託制度(自分のお金、親のお金により地域で暮らしていけることを助ける、銀行の信託とは異なるもの)の法制化に向け、今年、国会に提出する予定です。

裁判所が中心となる代行決定には問題があり、裁判所とは別に管理する機関が必要と考えます。(植物状態などの場合、代理決定は必要だとは思いますが。)

韓国の強み弱みに対して、競争社会により被害を受けている人も多いということから、社会を動かす原動力となり得ると考えています。

 

  • AOY(アドボカシー・オブ・ザ・イヤー)

福島県被災地における障害福祉サービス基盤整備事業 アドバイザー派遣事業

事務局統括コーディネーター 山田 優さん

AOYの表彰の後、本田隆光さん(NPO法人そよ風ネットいわき)がインタビュアーとなり、山田さんのこれまでの活動の軌跡(愛知県→長野県→福島県)を伺いました。特に、「聴くことこそ最大の権利擁護」という言葉が心に刺さりました。

 

【2月16日】

二日目は第2セッション、「独自の地域づくりは可能か」と題するパネルディスカッションが開催されました。

 

  • パネルディスカッション「独自の地域づくりは可能か」

パネリスト:川端 伸子さん(厚労省社会・援護局 成年後見制度利用促進室専門官)

朴 仁煥さん(仁荷大学校、法学専門大学院 教授)

永田 祐さん(同志社大学社会学部 教授)

コーディネーター:平野 隆之さん(日本福祉大学社会学部教授 / 日本福祉大学福祉社会開発研究所長、権利擁護研究センター長)

 

≪川端伸子さん≫

国は成年後見制度の利用促進を考えているのではなく、運用面で改善を目指すと言っています。地域生活の継続を意図して議員がわざわざ“共生社会”を入れています。

権利擁護の地域ネットワークを創ることを前室長の時代から言い続けています。新たなものをつくるのではなく、今あるネットワークを充実させる形で権利擁護支援体制を作ることを目指しています。就職氷河期の人の引きこもりが課題となります。この方たちが生活保護になると国が持たないという危機感が国にはあります。地域福祉計画をしっかり作ってほしいし、成年後見促進計画もその中に含めてもらっていいと言っているのはそのような意味です。

共生社会を進めている有名な地域には、どこでも「権利擁護センター」の存在があります。断らない相談について進めていると、出口支援が重要になります。その一つとして中核機関が存在します。

中核機関の要は、①候補者の選任、②後見人支援と思われ、そこにはかなり高度な能力が必要と考えられます。

資料にはさまざまな形の中核機関の例を示しています。国としては、すでに各地域が取り組んできた「包括的支援体制」と「権利擁護支援センター」の機能を活かしてほしいという思いを持っています。色々な機関に分散することで地域づくりが活性化されるという事を持ち帰って頂きたいです。

 

≪永田 祐さん≫

  • 権利擁護支援に関する政策動向について、資料をもとに詳細に説明されました。

私は「権利擁護支援」の理念を横串に地域づくりを進めることと考えています。その1つに「包括的支援体制の構築」があります。これは、それぞれの機関・制度の枠内での連携不足により拾えていないニーズを拾うことです。また、「地域との連携」があります。ここでは中核となるのが「市民後見人」ではないかと考えています。ただ、様々なネットワークがあり飽和している状態です。この機会に整理し構築し直すことが重要です。

 

≪朴 仁煥さん≫

まず、昨日の諸先生の話の前提となる韓国の精神障害者をめぐる状況を伝えます。

1990年代に精神保健に関する法律がようやく出来ましたが、それは本人の思いによらない入院を正当化するためのものと揶揄されました。地域支援としては精神保健センターにおける治療的支援しかありませんでした。そのため、昨日の諸先生の報告のような精神障害の人に対する支援の動きが始まっています。

日本の成年後見制度に対する感想ですが、地域づくりについて、サービス提供者という視点が強い、支援・保護について、日本は家族機能の脆弱化を前提としており、錯綜しているのではないかと感じています。第三者後見人が増えていることも気になります。

また、日本では任意後見があまり多く使われていません。どう活用するのかが突破口ではないかと思います。ヨーロッパでも家族が中心です。韓国では、「医療指示書」「信託」等の機会を進めています。

 

【ディスカッション】

≪川端伸子さん)

包括的支援体制を進めた理由としては、サービス提供の視点というより、そもそも声を上げられない人への気づきが大きかったです。当事者には権利擁護支援ネットワークの議論の中にも入ってもらい、お叱りを受けています。意思決定支援についての意見には入ってもらう予定です。

日本の家族機能の脆弱化という話がありましたが、家族では何ともならない人というところをどうするのかという課題に対して検討がされてきたものです。

任意後見・民事信託などは枠組みは法務省です。厚労省としては終活の動きとして進めています。

佐藤さんから昨日、裁判所では扱えないとの話がありましたが、大阪家庭裁判所の意思決定ガイドラインは、市民後見人が提出される報告書から本人さんの様子が伺え、重要な局面を決める時に非常に重要と感じた裁判官の気づきがあります。身体拘束の3要件のように、代行決定を書くと、それをすればOKとなることを懸念します。そこで、国がガイドラインを作成しようとしています(運用で意思決定支援へ)。

 

≪平野隆之さん≫

日本においては「働き方改革」の政策が上位にあり、介護離職の課題などを含め課題化されてきたものと考えることが出来ます。

 

【会場からの質問】

「地域福祉計画」「権利擁護支援計画」のどちらを作成すべきと考えますか?(西宮では「権利擁護推進計画を作ろう」をモットーに「地域福祉計画」に入れ込みました。)

 

≪永田さん≫

素晴らしい取り組みだと思います。まさに「権利擁護支援の理念」を横串にしたモデルだと思います。しかし、市町村行政は安易に作成出来ることを進めたいと思うことから、一体化を利用されることには懸念します。

 

≪川端さん≫

成年後見制度利用推進室としてはどちらでも構いません。各自治体で出来る方法で良いと考えます。

 

≪平野さん≫

私は単独計画派です。全体のしくみを計画に盛り込むことは難しいのではないかと思われるため、単独でしっかり作成することを進めたいです。多くの行政は計画化が強化されていないと考えられるためです。