2018年度 第10回全国フォーラム【報告】
第10回 全国権利擁護支援ネットワーク全国フォーラム報告
2019年2月8日(土)、9(日)の二日間にわたり、福岡県久留米シティホテルプラザ 久留米座にて、第10回 全国フォーラムが開催されました。
一日目は、「権利擁護支援と地域連携ネットワークの在り方を問う」と題して、パネリストとして、藤野雅弘さん(厚労省 成年後見利用促進室)、住田敦子さん(尾張東部成年後見センター)、中島由美さん(高知市社会福祉協議会)にご登壇いただきました。また、コメンテーターは佐藤彰一さん(AS=J代表)、コーディネーターは平野隆之さん(日本福祉大学・権利擁護研究センター) が務めました。開会にあたり、佐藤彰一さんより、成年後見利用促進法の目指すところは、地域づくりと権利擁護支援の推進であり、単に、成年後見制度だけを推進するものではないことを正しく理解していきましょうとお話がありました。
まず、中島由美さんより、高知県成年後見サポートセンターの取り組みのお話がありました。成年後見サポートセンターは高知市社会福祉協議会の共に生きる課のなかに位置づけられ、制度の利用相談、法人後見受任、市民後見人の育成等の機能を有している。日常生活自立支援事業から法定後見への移行数も60件ほどあることでした。また。高知社協さんの取り組みで、大変、印象に残ったことは、市内の民生委員さんや地域包括支援センター、居宅事業所等の職員を対象に、日々、現場でどのような相談が寄せられているか実態調査をおこない、その結果、高齢者の方々より入院時の金銭管理や死後の事務の不安の声が多く寄せられたので、そのニーズに応えるため、新しく「これからあんしんサポート事業」を創設されたことです。現在は、成年後見サポートセンターのなかに、「これからあんしんサポート事業」を位置づけ、入院した際は入院費の支払いや病状説明に立ち会うなど、市民へきめ細かいサービスを提供されていました。
住田敦子さんからは、尾張東部成年後見センターの取り組みのお話がありました。平成23年10月、5市1町の委託で開設された広域の尾張東部後見センターは、成年後見の社会化の元設置され、法人後見の機能を有し、地域の権利擁護支援の窓口として機能していること等、具体的な業務内容のご説明をいただきました。また、今後の方向性としては、中核機関の機能も有することになり、現在の動きもお話していただきました。そのなかで、尾張成年後見センターの取り組みで印象に残ったことは、センターが法人後見で受任している41名の被後見人さんへ「被後見人の本人実態調査」を実施されたことです。本人にとってメリットのある制度になっているか検証し、モニタリングをおこなっているとのことでした。このような調査は全国的にも珍しい取り組みで、意思決定支援を評価する意味でも大きな指標になっていくであろうと感じました。
藤野雅弘さんより、成年後見利用促進法を基盤とした地域連携ネットワークをめぐる最近の動きについてお話がありました。成年後見制度利用促進法の基本計画の考え方としても、早期対応から専門職までのつなぎの重要性を謳っており、その機能としては、地域連携ネットワークに大きく期待したいというお話でした。法務省所轄である成年後見制度と厚労省管轄の高齢・障害の方々をどのようにつなぐとか言う点は難しさもあるが、是非、地域連携ネットワークを十分に機能させて、司法と福祉の連携に期待したいという内容のお話をいただきました。そして、地域連携ネットワークは、関係者が集まれば良い、建物があれば良いという事ではなく、誰のためにネットワークを構築しているのか等、ネットワークの意味を忘れないようにしていただきたいというものでした。合わせて、成年後見制度利用促進法関連の予算は、社会福祉援護局、老健局、障害保健福祉部と別れている点も、事業をおこなう際、予算の使いづらさもあると思います。予算が各省またぐことについては、ご理解をいただき、是非、地域連携ネットワークの構築に向けた各地域の取り組みに大いに期待したいしたいというお話でした。
平野隆之さんより、高知市社会福祉協議会も尾張成年後見センターも、成年後見利用促進法が施行される前から、地域ネットワークや地域の課題を救い上げる実践をされているところに着目したいとコメントがありました。また、平野さんがおこなった「市町村における成年後見制度利用促進の計画化の方法に関する調査研究事業」によると、成年後見制度の相談ではないと思って相談にのっていても、実は成年後見制度が必要な方の相談であったこともあり、その人の悩みや困りごとを拾いあげる地域のネットワークの仕組みが重要であるとのお話がありました。
佐藤彰一さんからは、成年後見利用促進は権利擁護支援の推進を意味しているものであるが、ネットワークに意識が向き過ぎると、本人の意思決定支援が薄くなるような印象を受けている。意思決定支援がこの計画のなかでどこに位置づけしていくかも考えていくことが重要であろう。法律家のなかにはご本人の意思の理解ができなくて困っている者もいるようである。専門職後見人の支援も利用促進計画のなかに含めることも重要ではないだろうかというご意見もいただきました。また、連携と言っても、司法は特に連携に慣れていない歴史的な背景があると思われる。国レベルでは最高裁と厚労省、地域レベルでは家裁と自治体の連携などが、今後、活発になされていくことを期待したいとのことでした。
アドボカシー・オブ・ザ・イヤー(AOY)2018年の受賞式では阪井ひとみさんが受賞され、代表の佐藤彰一さんから表彰状が手渡されました。その後、阪井ひとみさんから、現在の活動やその思いについて短時間ではありましたが、お話をいただきました。配布資料には「不動産屋のおばちゃんの履歴書」と書かれた資料が配布され、その資料には阪井ひとみさんの誰しもが安心して当たり前の生活が営む権利があるにも関わらず、そのことが守られていない現実への思いと、今日までのそれらの障壁を取り除く活動の数々が記載されていました。具体的には精神障がい者の方々が病院から退院したくても居住場所(賃貸)が見つからないこと、保証人が見つからないことにより、病院で長らく生活を制限されている現状の解決に取り組まれたり、現在はシェルターの確保、すまサポおかやまの立ち上げなど、多くの活動実践のお話を聞かせていただきました。
二日目は、「権利擁護としての意思決定支援」と題して、パネリストとして竹内俊一さん(ASJ副代表)、小西加保留さん(京都ノートルダム女子大学)、菊本圭一さん(鶴ケ島社会福祉協議会)にご登壇いただきました。二日目のコメンテーターは上山泰さん(新潟大学)、コーディネーターは上田晴男さん(ASJスーパーバイザー)、ゲストコメンテーターには韓国の朴さん(仁荷大学校)が務めました。
竹内俊一さんからは意思決定支援のアセスメントシートの全国的な動きと地方の動きについてご説明があり、その後、未成年後見制度における未成年者への意思決定支援の考え方についてお話をいただきました。未成年後見人の場合、どうしてもパターナリズムを排除することは難しく、成人と未成年の意思決定支援の違いも含めてお話をいただき、上山泰さんからは、未成年と成年の意思決定支援は同一視できるところと、同一視できないところを分けて考えるべきであろうというお話がありました。上田晴男さんからも、未成年と成年の意思決定支援は共有的部分と異質的部分があるが、根本的には差があるわけではないと考えているとのお話もありました。
小西加保留さんから、意思決定支援をおこなう際、支援者側の感性が大きく作用するのではないかというお話をいただきました。それは、本人が伝えたいことを必ずしもお話するとは限らない。言葉にしていない、またはできない思いもあることなどを考えると、支援者側の感性が問われる。支援者の質を高めていくことも重要と思うというお話をいただきました。上田晴男さんからは、支援は支援者の実践そのものであるということ、上山泰さんからは、支援者自身が環境の一つであるというお話もいただきました。
菊本圭一さんからは本人の強さを引きだす支援が必要であることや、支援者が一人で抱え込まないことが重要であるなどのソーシャルワークに触れたお話をいただきました、ゲストコメンテータの朴さんからも、相談がしっかりできる場所、人などの環境が重要であることが触れられました。相談機能の重要性については研修会参加の皆様が認識を深めたことと思います。
最後に上山泰さんから、意思決定支援をおこなう際、どうしても、支援者側による選択肢の絞り込みがなされているのが現状であります。しかし、それは、無限大の選択肢の選択は原理的に難しいため、ある意味、そうなることは理解したほうがよいと思う。そのなかで、私たちは「許されうる誘導」とそうでない誘導ということにも、きちんとした理論的に整理していく必要があるとお話いただき、その整理の仕方を説明していただきました。
最後に、この二日間に渡り、大変、多くの方々に全国各地からお集りいただきありがとうございました。久留米市で開催された「全国フォーラム」は200名余りのご参加お申込みをいただき、無事に終えることができました。来年開催予定の第11回の全国フォーラムは京都で開催予定です。
みなさま、一年後にまた。お会いできることを楽しみにしております。
報告者
全国権利擁護支援ネットワーク
北海道ブロック運営員 水戸由子